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ディスク時代の「普通」。


Rapide CLXを三ヶ月ほど使ってみてのインプレです。


ロングライドでの使用が主なので、 レース強度での感想は記されていません。
また、Tarmac SL7には乗ったことがないので、あくまでVengeでの運用による感想です。
更に、ディスクブレーキ用のホイールはCLX64しか使ったことがないので、主にCLX64との比較となります。


ちょっとRapideの説明




"Real Speed For The Real World."

Rapide(ラピーデ) CLXは2020年にRoval Componentsより発売されたディスクブレーキ対応のクリンチャー専用カーボンホイールです。

Rapide CLXの最大の特徴はそのリム。

スクリーンショット 2020-12-05 17.46.34
引用:rovalcomponents.com

前後が異なるリム高・リム幅で、それぞれが明確に目的を持った形状となっています。
前世代であるCLX32/50/64はディスクモデルでもリム形状そのものはクリンチャーモデルと同じでしたが、
上の断面図で示されているように、Rapide CLXではリムブレーキの面を気にすることなく、完全に自由な構造をとっています。



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めちゃくちゃ広い



リムの寸法としては

Front リム高 51mm / リム幅 35mm
Rear リム高 60mm / リム幅 30mm

となっており、「前輪は全方位からの風に対する安定性を高める」「後輪は最高の空力性能を目指す」ための最適化を行っています。


ちなみに実測重量

Front 667g(リムテープ込)
Rear 768g (リムテープ込)
F/R合計 1,435g

でした。
これ、Racing Zeroと同じ位の重さです。やばい。



なんで買ったの?



理由は2つ。

1. CLX64は下り坂が怖い
2.ディスクブレーキ専用設計


1. CLX64だと下り坂が怖い

S-works Vengeの標準ホイールはCLX64 discです。
これもかなりいいホイールで、Vengeにはとっても相性がいいと思うのですが、
下りが怖いんです。

なぜ怖いのかというと、横風に影響を受けるから。

といっても64mmという高さにしてはあまり風に煽られることもなく、
3〜40km/h程度の速度域では十分安定して走行できます。

ただし、特定のシチュエーションではちょっと怖い。
例えば、横からいきなり強風が吹き付ける場合。
都心のビル風だったり、湖や峠で急に横の山壁がなくなってひらけたときに吹き付ける突風など。

それから、ダウンヒルの高速域。
CLX64はとにかく下りでの伸びが凄まじく速いので、50km/hを超えてくると吸い込まれるかのように下っていくのですが、
このときに風向きが変わったりするとハンドルが大きく揺すぶられます。
低速度域であれば十分対応できる風でも、高速域で押されると恐怖感が強く、結果としてダウンヒルで速度域を上げられない結果となっていました。

とはいえCLX64はとても良いホイールで、Vengeに履かせるなら似たようなホイールがいい。
なので、CLX64並に速いうえに、横風の影響を受けないホイールが欲しい…という、わがままな希望がありました。



2.ディスクブレーキ専用設計

こちらは純粋な好奇心です。
以前も書いたのですが、ディスクブレーキ化のなかで最もメリットを生むのは「リム設計の自由化」だと思っています。

なので、ついにリムが専用設計となったRapideはとても気になる存在だったのです。

超お気楽サイクリストはディスクブレーキの夢を見るか? - ディスクロードの購入が妥当だと結論付けたわけ -





ファーストインプレッション



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CLX64からGP5000を移植してそのまま乗ってみました。


第一印象としては、「なんか普通」です。

ホイールを履き替えて初めてわかったのですが、
Vengeの乗り始めから感じていたぬぬぬっとモーターのように加速する感覚の一部はCLX64のおかげだったようで、
それと比べるとRapide CLXは「本当に普通」です。

普通に加速し、
普通に転がり、
普通に登る。

あまりにも、優等生気味の感じ。

…と、一瞬ネガティブな印象を持ったのですが、もう少し乗ってみると考え方が変わってきました。

「これ、普通にすごいのでは?」


平地



とにかく癖がなく、穏やかに速いホイールです。

CLX64のときには「リムが進んでいる」感触が強く、良くも悪くもホイールの存在感が他を圧倒していたのですが、
Rapide CLXを履くと全体的に調和が取れる感覚があります。

すなわち、
「加速時にホイールが出遅れるような感覚がない」
「巡航時に風に押される感覚がない」
「ホイールが(CLX64比較で)ブレーキになっている感覚がない」
ということで、とにかく目立つ癖がない。
これが最初に「Rapide普通じゃん」と思ったことの真意であり、存在感の希薄さという意味でもあります。




特に優れているのは「風に押されない」という点で、

これまで気にもとめていなかったほど僅かな横風への対応が「ああ、あれは結構手間だったのだな」と思ってしまうほど、風に対する意識的なハンドルの微調整が不要です。


CLX64が風を切り裂いて進んでいる感覚の一方、
Rapide CLXは風をいなして進んでいく感覚。

言い換えると、
CLX64では風向きが変わるたびにハンドルへの荷重を微妙に調整して「いい感じ」の角度を探す必要がある一方、
Rapideはどの風向きであってもハンドルへの荷重を意識する必要すらなく、まるで風が無いかのように空気の中を泳いで行きます。

これはおそらく「風向きの急な変化に対して、リム側で発生する抵抗の変動が少ない」ということだと認識しています。
Trek / Bontrager の Aeolus XXXについてのホワイトペーパーでも、「フロントホイールに掛かる大きな横力で生じたステアリングトルク の大きな変化が、不安定さの最大の一因である」と示されているので、この「大きな変化が起きない」というのがRapide CLXの最大の美点だと思います。


ちなみにこのフィーリングはVengeの特性ととても相性がよく、風の隙間を縫ってスイスイと泳ぎ抜ける独特の乗車体験はほとんど快楽的であるとすら言える程です。



エアロ性能が良いだけかというと当然そんなことはなく、
リム自体が程よく重いので平地の巡航維持は容易ですし、瞬間的な加減速が辛いほどはリムが重くないので速度の出し入れもやりやすい。
CLX50や、リムの軽いチューブラーホイールから乗り換えるとかったるく感じるかもしれませんが、CLX64からの差し替えでは大いなる進歩です。


ごついリム形状の割には乗り心地も良いですが、
前輪のスポーク数が2本減ったせいかCLX64に比べるとホイール全体の一体感が高まっている感覚があるため、
フレーム側のバーティカルコンプライアンスが低い場合は少し硬いと感じるかもしれません。
この辺りはタイヤで調整できそうです。


上り



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「普通」に登ります。

ぶっちゃけCLX64でもそんなに不満はなかったのですが、
Rapide CLXもいい感じで登っていきます。
40mmでリム重量450gのCosmic Pro Carbon SL Cと同じくらいの印象なので、普通と言ってもさらりと凄いことをやってのけてる感じ。

とはいえ、CLX64比で200gも軽くなっている割にはそこまで変化がないです。
上りで一分一秒を削りたい人にはやはりAlpinist CLXが最適でしょう。

ただ一つ大きな違いとして、ダンシングがやりやすくなりました。
前輪の横剛性が増したのでしょうか。
CLX64ではリムが一瞬遅れてついてくるような感覚があったのですが、
Rapide CLXは、アルミスポークの高剛性ホイールほどではないにせよ、横方向へのたわみが少なく、安定した推進を見せます。
これもまた、「普通」なホイール、言い換えると「ネガティブ要素のない」ホイールだと感じさせるポイントです。


下り



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下りは「普通じゃない」です。


めっっっっっっちゃ速い。
恐ろしく速いです。

CLX64よりも速い。

なぜ速いのかというと、安定しているからです。

吸い込まれるような下りでの加速はCLX64と変わらないのですが、
高速域でも風に影響されず、剛性の高い前輪のおかげで全く恐怖感がありません。

まるでゲームのような、あまりにも非現実的な加速と安定感で、むしろ危険なのではないかと思うほどです。

コーナリングでも非常に安定しています。
CLX64やBORA Oneではコーナリングでリムが立ち上がろうとして弱アンダー気味(外に引っ張られる)の挙動を見せるのですが、
Rapide CLXは癖が少なく、ニュートラルなコーナリングを見せます。

これまで試したホイールの中ではRacing ZeroやKsyrium SLRはオーバーステア気味、BORA OneやCosmic Pro Carbon SLC,CLX64はアンダーステア気味だったのですが、
Rapide CLXはちょうどその間、倒しただけちゃんと曲がってくれる感じです。


そしてブレーキ性能は当然ながら優秀です。
ディスクブレーキの制動力は非常に高く、リムの熱を気にする必要もありません(キャリパー側の熱は気にする必要がありますが)。



一つ不思議なのは、CLX64ではタイヤのグリップを使い切ってロックしていた場所で、Rapide CLXでは同じタイヤなのにロックしなくなったことです。
リム内径が広がったことでタイヤの接地面が変わったのか?と思ったのですが、横に広がったとしても接地面積の総量が変わらなければブレーキ時に必要な前後のグリップはむしろ減ってしまいそうな気が…
謎です。


使い勝手



いくつか気になるところがあったので、メモしておきます。

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1. リムが35mmもあるものですから、タイヤから飛び出ています。
なので、不用意に溝に落としたりするとガリ傷が付きます。

しょうがないのですが、ちょっとヒヤヒヤするポイントですね。


2. ハブのベアリングがセラミックベアリングからDTのプレミアムスチールベアリングに変更されています。
セラミックベアリングはなんとなく気を使うイメージだったので、個人的には悪くない変更かなと思っています。
回転性能は落ちることも覚悟していたのですが、バイクをひっくり返して空転させたときの回転具合を見る限りは大して変わりないようですし、乗ってみてもリムの変化が大きすぎてよくわかりません。


3. タイヤの保持能力が高すぎるため、選択するタイヤによってはビードフックから外しにくい場合があります。
詳しくは以前書いたのでご参照ください。

Rapide CLXはタイヤを選ぶ



4.すごくどうでも良いことですが、名前が紛らわしすぎる。
これまでのホイールもRapide CLXシリーズだったので、検索結果がカオス。


まとめ

 

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Rapide CLXのコンセプトである"Real Speed For The Real World"。
履いてみて、その意味がよくわかりました。

現実世界では上りもあれば下りもあり、向かい風もあれば追い風もあります。
風洞実験上や、特定の極端な条件下だけではなく、現実世界のどこを走っても速い。

そんな夢のようなホイールにRovalが挑み、見事に作ってしまいました。

どこを走っても速いが故に癖がなく、僕のような凡夫には一瞬「普通だな」とさえ感じさせてしまうホイール。

Rapide CLXはまさしくディスクブレーキ時代の申し子であり、
そして、「新時代の普通」、ニューノーマルです。


Vengeはワクワクするような派手な「未来」を見せてくれる作品でしたが、
Rapide CLXは新時代のスタンダードを大きく押し上げる、 深みのある「未来の普通」でした。


こんなホイールが「普通」になった時代のロードバイクは、これから先どこまで行ってしまうのでしょうか。 
今から楽しみです。



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