ロードバイクにディスクブレーキっているんだっけ?って思う人の話。
ここ数年、ロードバイク業界で最も大きなトレンドは「ディスクブレーキ」です。
引用:Cyclowired
記憶する範囲では、メジャーなブランドのハイエンドモデルでディスクブレーキを初めて売り出したのは2012年発表のCOLNAGO C59 Diskでした。
(2006年にCanyonのProjekt 6.8でディスクブレーキを使っていましたが、あれはスペシャルだから例外ということで。それより前の事例をご存じの方は教えて下さい)
初期の追随者はBMCのGF01やGIANTSのDEFYなどのエンデュランスロードと呼ばれるジャンルだったかと思いますが、それから7年でここまで普及するとは想像もできませんでした。
各社がトップモデルのディスクブレーキ版を出したり、そもそもディスクブレーキのみに絞る動きが出るなど、激動期であることは間違いありません。
(特に、EASTONがディスク対応ホイールのみとした決断には驚かされました)
でも、一般ユーザーの多くはこう考えるはずです。
ディスク、いる?
ここ数年、自転車乗り同士が集まれば一度はそんな話になっているでしょう。
「ディスク重いじゃん。流行ってるけどさ。今のホイール使えないしなぁ」なんて。
今回、リムブレーキと古典的なフレームを愛する僕がディスクロードをそろそろ買ってもいいんじゃないかと思った理由をここにまとめたいと思います。
誰かの役に立つかはわかりませんが、数年後に自分で見返して答え合わせするのにはちょうどいいかなと。やっぱりディスクだめじゃん、とか言ってるかも。
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ディスクブレーキの良いところ・悪いところ
ディスクブレーキの良いところとして定番のフレーズは「ブレーキが効く」というもの。
でも、きっとそれだけじゃないはずです。
ちょっと考えてみた結果、ディスクブレーキのメリデメを考えるには
A.ブレーキシステムとしての(リムブレーキと比較した)ディスクブレーキの評価
B.バイク全体の設計に及ぼす影響から見た、リムブレーキの代替としてのディスクブレーキの評価
C.その他、バイク全体への影響
という分類が適切かな?という結論に至りました。
思いつくままに整理すると、こんな感じです。
A.ブレーキシステムとしての評価
■メリット
・絶対的な制動力の上限値が高い
・雨の日など悪条件下でも性能が落ちにくい
・レバーが軽い(油圧の場合)
■デメリット
・パッドの減りが目視で確認しにくいため面倒
・パッドとローターのクリアランスが狭いためメンテ・ホイール交換が面倒
・SRAMの場合、使用していなくてもブレーキフルードの定期的メンテナンスが必要
B.バイク設計に及ぼす影響
■メリット
・キャリパー自体が無くなるためヘッド・フォーククラウン・シートステー周辺の設計が自由になる
・キャリパーの最大幅制約がなくなるためホイール・タイヤ共に広いものを使用できる
・リムが制動を担う必要が無くなるため、リム設計の自由度が増す
・ワイヤー式に比べて取り回しの自由度が高いため、フレーム等の設計自由度が上がる
・設計を最適化するとディスクブレーキのほうが空力がいい(らしい)
■デメリット
・フォークエンド・ステーに左右非対称な荷重がかかるため、設計・剛性コントロールが難しくなる?
・スポークの本数が増える・構造的強度が必要になる?
C.バイク全体への影響
■メリット
・スルーアクスルでホイールとフレームの一体感が向上する(リムブレーキでもスルーアクスルは使える)
・エンド幅拡大により12s以上の導入が促進される(ディスクブレーキ化が必須ではない)
・バイクの重心が下がる
■デメリット
・これまでの機材との互換性が無くなる
・今のところ数百グラム重い
…つらつらと書きましたが、つまるところ「ディスクブレーキによるメリット・デメリット両方あるよね」という当たり前のことが示されました。
で、このメリット・デメリットの評価はどうなるのか、というのは購入者の「目的」によって大きく変わってくることになります。
例えば、僕は雨の日とか基本的に走らないので「雨の日に制動力が落ちにくい」というディスクブレーキ のわかりやすいメリットは全然響かないわけです。
でも、雨の日も通勤で乗る人や、レースでどんなコンディションでも走らなきゃいけない選手などには結構ポイント高いはずです。
重さだって人によって気にする度合いは違うでしょうし、引きの軽さも人それぞれです。
ところでお気づきでしょうか。
実は先ほどの評価、「B.バイク設計に及ぼす影響」のセクションだけは直接的にユーザにメリット・デメリットのある話ではありません。
Bのメリデメに影響を受けるのは、バイクメーカーです。
キャリパーブレーキが無くなることにより得られた自由をどう活かすのか、それがここ数年各メーカーに突きつけられた問題であったわけです。
言い換えれば、腕の見せ所、差別化ポイントってやつですね。
といっても今の所大きな方向性としては2つで、結局エアロとエンデュランス(快適性)。
ディスクの採用が貢献できるのは多分フォーク周りのエアフローとタイヤクリアランスなので、Venge作ったりDomane作ったりするわけですね。
C59 Discのような「古典的なバイクにディスク付けただけバイク」はフレームデザインの自由度向上から来るメリットを享受できないのでユーザーターゲットが狭くなってしまいがちですが、各社がディスクに本腰を入れた結果、「ディスクでしか作れないバイク」が少しずつ生まれつつあり、それが1つの差別化ポイントとなっているのが現在です。
で、僕はこの「ディスクでしか作れないバイク」の魅力は非常に大きいと感じたんですね。
「制動力はMavicのエグザリットやiTgMaxで十分だし、雨の日乗らないし。レバーの引きは紐デュラで十分。今の機材が使えなくて重くなるだけじゃん」と思ってたんですけど、ディスク採用によって解き放たれた各社の創造性には惹かれるものがあります。
大雑把にいってしまえば、「未来」を感じます。
キャリパーブレーキのような、リムで摩擦力を発生させて制動するブレーキ構造は19世紀後半には誕生していたということですので、おおよそ130年以上ブレーキシステムには大きな変化がなかったと言っても良いと思います。
ツールドフランスよりも長い歴史を持つリム摩擦式制動システムを代替しようという大きな動きが、今ここに起きています。
ディスクブレーキがロードバイクにとって適切なブレーキシステムであるかという議論はさておき、「リム以外でブレーキするという仕組みを導入することでロードバイクという概念が変化していく」そういった時代がついに来ていると感じられるのです。
具体的にどんなところが進化しそうなのか
ここ数年、ディスクブレーキを前提としてバイク設計を切り替えてきた各社のプロダクトから、すでに訪れている未来と、これから手がつけられそうな部分をちょっと妄想してみます。
すでに訪れている未来 - ハンドル設計
引用:Cyclowired
Vengeのホワイトペーパーでは「ハンドルはめっちゃ大事。Vengeの空力性能の40%はコックピットエリアのおかげ」なんて書いてありました。
3年前にはVision Metronのようなステム一体型ハンドルが各社から出ましたが、やっぱり調整面で難があったのでしょうか、ここ1年は続々と調整可能かつトータルデザインされたステムとハンドルが販売されています。この先もこの流れは続くでしょう。
空力を考え、かつ一体感のあるステム・ハンドルまわりを演出するにはケーブルをどうにかして内部に押し込める必要があります。場合によってはかなり複雑なルーティングで。
別にワイヤー引きでもいいんですけど、油圧だとルーティングが楽になるはずです。
Cerveloのホワイトペーパーにも、「ディスクブレーキのルーティングは柔軟性が高いので、ケーブル内装化が多少容易になった(意訳)」と書いてありました。
ヘッド・フォークの空力関係を考えるためにピナレロのトラックフレームであるBolide HRのホワイトペーパーを読んでみました。
Bolide HRは当然ブレーキキャリパーが無いので、フォーククラウン周りについてはディスクブレーキロードに近いシュミレーション結果が出ているはずです。
引用:Pinarello Boride HR White Paper
実際ホワイトペーパーには「ブレーキが無いトラックバージョンのフレームではヘッド周りの造形を最適化できてめっちゃ空力改善できるわ」って書いてありました。
やはり風が最初に当たる部分を綺麗に作るって大事なんでしょうね。
(その割にDogma F10 Discはヘッド-フォークの段差がそのまま残っていたのがあんまりイケてないなと思いました)
引用:Cyclesports
ディスクブレーキロードもヘッド-フォーク接合部のエアフロー最適化がポイントとなると思います。
CerveloのS5 Discとかは早速そのあたりに気合い入れて造形していますね。
引用:Pinarello Boride HR White Paper
空力的にはフォーク周りもかなり重要とのことで、特にホイールとの距離が影響するようです。
ピナレロはフォーク-ホイール間の空気抵抗削減に2つのソリューションがあると言っていますが、1つは「フォークとホイールの間のスペースを広げること」、もう1つは「逆にギリギリまでスペースを狭めること」。
Bolide HRでは後者を選んだとのことで、なるべくフォークをホイールに近づけることでエアフローを最適化しています。
しかし、トラック専用バイクであるBolide HRではともかく、一般的なロードバイクではタイヤやホイールも様々ですし、フォーク-ホイール間のスペースを広げる方向性がより良いと推測されます。
リムブレーキ用のブレーキキャリパーが無くなることで障害物が無くなるだけではなく、フォークをがばっと大きく広げることができるので、フォーククラウン周辺の最も高速にホイールが通過するエリアにおけるエアフロー最適化が容易になりそうです。
すでに訪れている未来 - ヘッド・フォーク設計
ヘッド・フォークの空力関係を考えるためにピナレロのトラックフレームであるBolide HRのホワイトペーパーを読んでみました。
Bolide HRは当然ブレーキキャリパーが無いので、フォーククラウン周りについてはディスクブレーキロードに近いシュミレーション結果が出ているはずです。
引用:Pinarello Boride HR White Paper
実際ホワイトペーパーには「ブレーキが無いトラックバージョンのフレームではヘッド周りの造形を最適化できてめっちゃ空力改善できるわ」って書いてありました。
やはり風が最初に当たる部分を綺麗に作るって大事なんでしょうね。
(その割にDogma F10 Discはヘッド-フォークの段差がそのまま残っていたのがあんまりイケてないなと思いました)
引用:Cyclesports
ディスクブレーキロードもヘッド-フォーク接合部のエアフロー最適化がポイントとなると思います。
CerveloのS5 Discとかは早速そのあたりに気合い入れて造形していますね。
引用:Pinarello Boride HR White Paper
空力的にはフォーク周りもかなり重要とのことで、特にホイールとの距離が影響するようです。
ピナレロはフォーク-ホイール間の空気抵抗削減に2つのソリューションがあると言っていますが、1つは「フォークとホイールの間のスペースを広げること」、もう1つは「逆にギリギリまでスペースを狭めること」。
Bolide HRでは後者を選んだとのことで、なるべくフォークをホイールに近づけることでエアフローを最適化しています。
しかし、トラック専用バイクであるBolide HRではともかく、一般的なロードバイクではタイヤやホイールも様々ですし、フォーク-ホイール間のスペースを広げる方向性がより良いと推測されます。
リムブレーキ用のブレーキキャリパーが無くなることで障害物が無くなるだけではなく、フォークをがばっと大きく広げることができるので、フォーククラウン周辺の最も高速にホイールが通過するエリアにおけるエアフロー最適化が容易になりそうです。
これからに期待 - ホイール設計
引用:Specialized
リム設計が自由になるはずのホイール設計なのですが、今の所あまり進展がありません。
CLX64 Discの説明には「耐衝撃性の高いリムを持ち、最適な剛性と軽量性を実現するディスク専用のカーボンレイアップ」と書いてあるのですが、見た目はブレーキ面が無いだけでそんなに変わらないんですよね。リム幅もリムブレーキ版と同じですし。
リム単体で実測してみたら重量違うのかもですが、全体重量はディスク版のほうが重いですし。
ENVEはディスク版のほうがリム重量が軽いと聞きますね。
が、もっと自由になってくれるんじゃないかな?と期待しているのです。
Zippの454みたいに、異型なリムを用いたホイールなどが出てもいいと思うのです。
ディスクならではのロード向けホイール設計が前面に出てくるのは、あと3年くらいかかりますかね。
これからに期待 - タイヤ
引用:Cyclowired
新型Domaneの標準タイヤが32cというのが最近とても印象的なニュースでした。
もちろんすべてのロードバイクが32cになるのはまだ先だと思うのですが、28cは次のスタンダードになる可能性が高いと考えています。
ディスクブレーキの制動力を活用するためにタイヤ側のグリップを向上させたいですし、リム幅の拡大も相まって、より太いタイヤを履くというのは自然な流れです。
ただし、ロードバイクのエンジンは人間ですから、バイクの進化に伴って出力が大きく上がっていくということはなかなか無いわけですね。
となると、タイヤをワイド化するだけじゃなくて、軽くしなきゃいけないわけです。
28cが今の25c程度の重量になれば、28cを使うことのデメリットは大きく下がるでしょう。
実はGP5000 CLの28cが235g(カタログ値)なので、もう28cを履いてもいい時代になっている説はあります。
チューブレス化も当然求められていくと思うのですが、チューブレスは使ったことが無いので想像がちょっとできませんでした。
これからに期待 - フレームとディスクブレーキの統合
引用:Cyclowired
ディスクブレーキという構造物をフレームにいかに組み込み、溶け込ませるかについては今後どんどん進化していく部分だと思います。
上の写真はBMC Timemachine Roadですが、ディスクローター部分にカバーが取り付けられています。
BMCはTTバイクでもディスクブレーキキャリパー外側をカバーするインテグレーテッドカバーをフォーク先端に取り付けており、フロントディスクブレーキの空力向上に(効果的かどうかはデータがないものの)熱心のようです。
一方でジャイアントは「前から受ける風はブレーキ部分に当たる前に、既にタイヤ、リム、スポークでかき乱されているから」ディスクブレーキの存在は空力的になんの影響もないと言っています。
実際に効果があるかどうかはともかく、マーケティング上の理由からもディスクブレーキの存在を前提としたデザインが進化していく可能性はあるでしょう。
「未来」とは、ロードバイクという概念の再定義
ディスクブレーキの多様なメリデメから、ディスクブレーキを起点に大きく動くロードバイクの作りについて思いつくままに書いてみました。
まとめると、
・ディスクブレーキはメリット・デメリット共に多面的な変化をロードバイクにもたらす
・その変化はブレーキシステムだけではなく、ロードバイク全体に影響する
・その変化がロードバイクの「未来」を形作るものであり、新たな差別化ポイントとなる
という感じです。
「未来」とは、この100年以上続いてきたリムブレーキからの解放。
そして、この20年間のカーボン競争の次に訪れる大変革。
齎されるは、ロードバイクという概念の再定義。
とあるバイクに乗って、「未来」の気配を確信しました。
次回は、そのバイクについて、もしくはもうちょっと違ったバイクについて書きます。
コメント一覧 (2)
-
- September 05, 2019 01:06
- >小林さま
ご無沙汰しております。
最近忙しく、特に機材も買っていなかったので書くことがありませんでした笑
Blog移動されたようですね。少し前にリンクを差し替えておきました。
ハンドル周りのスッキリ度合いはディスクで完成された感がありますね。
こればかりはワイヤーでは物理的にかなわない部分です。
チューブレスは良いと聞きますね。
僕もそろそろ…と思いつつ、シーラントも含めると重量増になってしまうのと、出先でのパンク修理が大変そうで二の足を踏んでいます。
ブルベ中にシーラントで対応できないレベルのパンクが起きたら…とか、固着したシーラントが大変そうだなぁ…とか笑
これから更に精度が上がってくるとそういったネガは無くなっていくのでしょうね。
ディスクブレーキ時代にはチューブレスが妥当な選択だと思うので、開発が加速しそうです。
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YAHOO-メールが終了のため、同じ名前でFC2に移動しました。
みんなディスクって騒いでいますが、自分も本当は欲しくてたまらいのですよ。
DI2で組むとホースやワイヤーがすべて内装されて、外観がフレームとステアリングだけになる外装が好きですし、なんかそれが一番欲しくなることかな。
私は、コスカボSL USTに乗ってからチューブレスが一番好きになりました。
追加で中華58mmのワイド29mmホイールも追加購入し、コンチネンタルのGP5000TLも買って嵌めてみました。
調子にのってMTBのほうもチュウーブレス化してしまいました。
乗り心地、下りのコーナーなどの走りは何か次元が違うように感じます。
試しにBORA35(C60用)のタイヤもGP5000CLに替えてみましたが、こちらはGP4000SⅡとちょっと違うかくらいに感じます。
次期ディスク車購入の際は、チューブレス化をお勧めします。
どうせホイールもすべて新調しないといけないのですから。