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はやい。

というわけで、買いました。
S-Works Venge SRAM Red eTAP AXS(early 2020?) です。

前回前々回とディスクブレーキについて書いたのは、Vengeを買うまでに考えたことを纏めたものでした。
色々考えた結果、ディスクブレーキでなければ成立しなかったであろうバイクとしてVengeは現在最も未来を感じられるバイクの一つだと結論付け、試乗もせずに買いました。

今回は概観編ということで、インプレではなく機材の仕様・開発プロセスから考えたことに触れます。




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購入時にはスペシャライズドが提供するRetulバイクフィット(3万円+税)を受けました。

理由は3つ。
1.これまでのバイクに比べるとポジションの試行錯誤が面倒なので、最初に理想値を出したい
2.自己流ポジションに専門家の意見を取り入れて答え合わせしたい
3.S-Works Fit Premiumを利用したい(後述)


最初にフィッターさんとの問診で目的を明確化し、ボディアセスメントで制約値を確認します。
その後、Retulのフィットバイク上にVengeの52と49サイズのジオメトリをそれぞれ再現してもらい、どちらがより理想的か試行錯誤を繰り返しました。
フィッターさんと色々な意見交換ができ、新しいポジションに対して納得感を得られたのでとても良い時間を過ごせました。


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光学センサを全身に取り付け、リアルタイムで各関節の動きを計測できます


そして3つめの理由、S-Works Fit Premiumについて。
スペシャライズドはS-Worksモデルに限り「S-works Fit Premium」というサービスを行っており、Retulを受けてから1年間の間、Retulの結果に対応した購入時の一部部品交換が無料となるのです。
対象はハンドル・ステム・サドル幅・シートポストとなり、更に有料ですがS-worksクランクのクランク長も変更できます。
S-worksモデルのハンドルやサドルは単体で購入するだけで結構なお値段なので(例えばエアロハンドルは3.4万円!)人によってはRetulの料金がチャラになるかもしれません。
僕の場合はハンドル・ステムは交換の必要がなかったため、サドル幅のみ変更しました。



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S-Works Venge 概観



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ということで、Vengeです。フレームサイズは52。
写真の状態で重量は7.8kgです。絶対値としては軽くないですね。
とはいえエアロロードに64mmハイトのディープリムを履かせればリムブレーキでもそれくらいにはなりそうですし、トータルパッケージとしてはディスクの割にかなり軽く作られている印象です。
ペダルとライトを外せば7.3kg台なので、ほぼカタログ値通りのようです。


カラーはグロスメタリックホワイトシルバー/ライトシルバーフェードというよくわからない色。
簡単に言えばメタリックの白とシルバーです。

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おそらくですが、全体的にホワイトを塗った
あと、横の面にだけグレーシルバーを吹いてある感じです。
上面が明るい白なので、上からスポットライトを当てられたように造形が浮かび上がってとてもいい感じ。

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ディスクブレーキの恩恵を最も受けるフォーククラウンエリア。
ヘッドとフォークはなだらかに繋がり、美しい曲線を見せています。
フォーク内側のクリアランスも非常に広く、エアフローによる抵抗を削減しています。

ディスクブレーキ導入によるフォーク周りの設計変更が空力にどのように影響するかは、前々回の記事に書いています。

ディスク部分にはBMCのようなカバーはなく、むき出しで取り付けられています。
エアロロードでもカバーいらんのかなと思ったのですが、スペシャライズドのLeader of Innovation & Engenieering、絶対エアロマンことChris Yuがベルギーのメディアインタビューで「カバーは重量増になるし、ディスクローターの冷却にも影響するので悪い影響のほうが多いんだよね。あと、ディスク化に伴い増えたスポークのほうが遥かに抵抗になるからブレーキの方は無視してOK(意訳)」と答えていました。


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スペシャライズドのホワイトペーパー(リンク先pdf)によれば「Vengeのエアロ特性の40%」が生み出されるというコックピット。
アルミ製のステムは90mm、カーボン性のハンドルは幅400mmです。
ステム後端がカバーによって仮想的に伸ばされているので、短いステムでもかっこよく見えるのが最大のメリットです。
ちなみにこのステムとハンドル、超硬いです。

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ステムから生やすBarflyの専用マウントが付属します。
GarminやWahooなど、いくつかのマウントに対応します。PioneerのCA600はWahooマウントなので無事取り付けられました。
ライトはVolt800を採用。Barflyマウント下にGoProマウントを増設できるので、拡張性が高い仕様です。
キャットアイのGPブラケットを購入して、キャットアイマウントで直付けです。




…しかし、40%も影響するというコックピット周りのど真ん前にバルキーなサイコンやらライトやらつけるのはなんか気持ち悪いですね。
そろそろエアロなライトとか出てもいいと思うのですが。


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サドルはS-works Power。その下に取り付けたリアライトは充電式のXlite100です。



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タイラップでマウントを固定し、本体をねじ込む仕組みです。
タイラップを除けばなかなか質感が高く、バイクに溶け込む見た目なので気に入っています。
空力的にも悪影響の少なそうな場所ですし、エアロロードにはおすすめです。

光量はそれほど強くないので、ブルベなどナイトライドが事前に想定できる場合は別途ライトを取り付けることになるかと思います。

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ボトルケージはTNIのLW17 1です。
3000円程度の価格で実測12g(ボルト・固定用ゴム除く)という超軽いケージ。
軽さよりも存在感が強すぎない見た目が気に入って採用しました。
固定力は結構しっかりしてます。




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コンポはSRAM Red eTAP AXS。
詳しい使用感は別途レビューを書くかもしれないのでとりあえず省略。
これまでアクセントとなっていた赤色がなくなり、シルバーと黒のツートンカラーがいい感じです。




Vengeの開発プロセスから考えたこと




Specialized-Venge-2018-1-of-1-2
引用:Cyclingtips

Vengeを買うにあたって、巷にあふれる情報を色々と調べました。
だいたいどのエアロロードでも説明書きに「CFDとウィンドトンネルで数千時間を〜」などと書いてあるのですが、スペシャライズドもホワイトペーパー(リンク先pdf)などで色々とマーケティング的・技術的な主張をしています。

スペシャライズドもサイトなどでは風洞実験施設Win Tunnelの写真をあちこちで見せていますが、今回のVengeは風洞だけで作られたバイクではないようです。
今回の開発のキーは「FreeFoil Shape Libraly」というもの。


FreeFoil Shape Libralyについてはこう書かれています。 
「完璧なチューブ形状の実現は、FreeFoil Tube Shape Libraryという新テクノロジーの構築から始まりました。エンジニアたちは最適化アルゴリズムを書き、本物のスーパーコンピューターを用いて、重量と表面積と構造的目標の異なるさまざまな新しい翼断面形状を作り出しました。多様なアスペクト比を持つ数多くの形状を収めたライブラリーをもとにバイクの各部を設計し、Win Tunnelでの多くのテストを経て、最も空力に優れ、最も速い形状を割り出しました。」
 
どうやら、特定の条件下における最適な翼断面形状のバリエーションを生成するソフトウェアのようですね。
更に、以下の動画を見てみました。







Vengeの設計開発に深く関わった4名のインタビュー動画です。
登場者は
Doug Russel Road design engineer
Chris Yu DIR of Integrated technoloies
Ingmar Jungnickel Aerodynamics & Applied tech
Stewart Thompson Venge Product Manager


彼らの会話から、いくつかのことがわかりました。

・Venge Viasはスピードを最優先とし、実際に速かったが、いくつかの課題があった(コクピット剛性・メンテナンス性・全体重量)
・Ingmarのプログラムが新型Vengeの初期設計を担っている
・プログラムが推奨する最も空気抵抗の低い形状は"パイプなし"
・シートポストは結構大事

他にも色々と面白い内容が書かれているので是非観てみて欲しいのですが、一番大事なのは先代であるVenge ViasとIngmarのお話です。 
Ingmarとは何者でしょうか?


 

 Specialized
引用:Specialized


第二世代のVengeである、Venge Viasから話を始めましょう。
絶対エアロマンのChirs Yuが"Aero is everything"と呟きながら作り上げたこの空力モンスターは、しかしながらそのメンテンス性の悪さや全体重量の重さから"エアロ以外はどうすんねん"というツッコミに耐えきれませんでした。

その反省もあったのでしょう、"Aero is important, but not everything"と方針を変え、空力は良いままで使い勝手よく、軽いバイクという目標が立ち上がりました。
しかし、Vias並みの空力性能を保ちつつ、大幅に軽量化するなんてどう考えても難題。
そこに現れたのが Ingmar Jungnickel。発音がわからない人。 
ドイツの大学でダイナミックスタビリティにおけるディープリムの効果を研究したり、インターンとして開発した風洞での空気抵抗計算システムがプロチームやドイツナショナルチームで使われたりしている25歳。すごい。

彼が開発したのがFree Shape Optimizationであり、その結果がFreeFoil Shape Libralyなのです。
おそらくFree Shape Optimizationにより特定の周長下において剛性・表面積・空力のバランスが最も良いチューブ形状のバリエーションを多数生成し、設計時の要望に応じて自由に選択できるようDB化したものがFreeFoil Shape Libraryなのでしょう。



一番似た開発法としてはBMCのACEテクノロジーが挙げられるでしょう。
BMCのACEテクノロジーもアルゴリズムでチューブ形状をイテレーションで見つけ出す方式です。
BMCは重量・剛性・バーティカルコンプライアンスの3つをターゲットとしていますが、Free Shape Optimazationはその空力版と言えると思います。
ただし、スペシャライズドはおそらくジオメトリを前提とせず、あくまでチューブ形状の状態でライブラリ化することで汎用性を持たせているような気がします。


通常のバイク開発では(おそらくVenge Viasでもそうであったと思いますが)フレームを作る際にはまずそれっぽい形を経験則やマーケティング基準で作り、その後CFDや風洞実験で空力が良いかどうか試して直していくのだと想定しています。(実際にバイクを作ったことがないので断言できませんが) 

そういった通常のやり方では、最初のあたりを付けるノウハウや、その後の修正にてフレームの性能が決まっていくでしょう。
逆に言えば、最初のデザインが大きくハズレた場合やあまり性能が出なかった場合にはまた1から作り始める必要があります。つまり、開発期間中に行うことのできる試行錯誤の回数はそれほど多くないでしょう。
トライアンドエラーには時間がかかります。

一方で、スペシャライズドはチューブ形状のライブラリを作成したことで開発初期に大きく外すことなくフレームを作ることができるようになったはずです。
ライブラリ内のチューブ形状にはバイクとして組み上げたときのチューブ間の相互影響までは織り込まれていないと想定されるので、もちろん最終的にはCFDや風洞で全体の空力を確かめて調整する必要があるでしょう。
ただし「各性能下でどんな形なら最もエアロか」がわかっているというのは、完全に勝ちパターンを確立したということ。
ジオメトリを決定し、必要な剛性を決めた上で最適なチューブ形状を選んで当てはめるだけでそこそこエアロなバイクができてしまう。
人力では到底敵わない回数の反復を行った結果の最適なチューブ形状をパーツ化し、バイクの方向性に応じて自由に組み替えられる。
そんな環境を構築してしまったのでしょう。
新型RoubaixもFreeFoil Tube Libralyから初期チューブ形状を選択しただけでTarmacよりエアロになっちゃったとのこと) 


まとめれば、
一般的開発
 経験等である程度の形を作る→CFDで修正→風洞でテスト
アルゴリズムベース開発
空力が良いとわかっている形を組み合わせる→CFDで修正→風洞でテスト

という流れになるという想定。
初期の試行回数も桁違いですし、修正の効率も非常に高そうです。

specialized-s-works-mclaren-venge-bike-xl 

Vengeについて調べれば調べるほど、エアロロードの進化により各社の技術力の差が残酷なまでに出てきそうで怖いです。

重量という客観的に評価しやすい指標が競争基準だった2000年代は良かったのですが、目に見えず評価もしにくい空力という要素は各社の体力勝負となってしまいそうで、本当にその価格だけの価値を持つエアロロードを作ることができる会社はほんの数社となってしまうのではないかという不安があります。

ことエアロになると各社ホワイトペーパーを書き、気合を入れてマーケティングしています。それは裏を返せば、マニアックなことまで主張しないと違いがわかりにくいということ。

巨大な資本を持つ数社はこのエアロ大戦で鎬を削るでしょう。
一方で 、そこまで細かい数値を -無数の努力により節約される1wの差を- 気にしない大多数の人には、かっこよくて美しいエアロな外見があればそれで良いのです。

orbea
引用:twitter
先日公開されたOrbea Orca OMXはプロではなく一般ライダーのために作ったとのこと。かっこいい。


でも、こうやって進化を続けていくうちに資本を注ぎまくった大企業は届かぬ高みに行ってしまうかもしれません。
Tarmacのように軽く、Vengeのようにエアロで、Roubaixのように快適な、そんなバイクが出来上がってしまう可能性があるのです。
そして、その時比較的小さなメーカー、例えばコルナゴのような会社が同じ土俵で戦えるのかどうか、僕は心配でなりません。
テクノロジーとロードバイクの進化がこの先ロードバイク界をどう変えていくのか、とても怖い一方で、楽しみでもあります。




何故ここまで無駄に未来を憂いているかというと、実際に乗ってみたVengeがめちゃくちゃに速いと感じたからです。 
それはあまりにも、あまりにも速いような気がします。 

その話はまた次回に。 




ここまでのディスクブレーキ関連記事シリーズ

お気楽サイクリストはディスクブレーキの夢を見るか? - ディスクロードの購入が妥当だと結論付けたわけ -

超お気楽サイクリストはディスクブレーキの夢を見るか? - S-Works Roubaix 2020に試乗して思ったこと -