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未来はすぐそこに。
ディスクブレーキロードについての思考メモその2です。
前半はS-Works Roubaixのとりとめもない感想。
後半はそこから派生したロードバイクの根源的魅力に関する妄想です。



前回の記事では、ディスクブレーキによって"バイク設計全体が"最適化されているのであれば積極的にディスクを選んでも良いのではないかという内容を書きました。

で、仮説を持ったら証明したくなるのが世の常。
今回はありがたいことに乗る機会を得ることができました。
どうやらこれが、ロードバイクという概念自体を拡張してくれそうなのです。 



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ということで、やってきたのはスペシャライズド銀座。

2019年現在、ディスクブレーキを前提とした設計を最も進めている(ように見える)ブランドの一つです。

Specializedのハイエンドロードバイクといえば、オールラウンダーのTarmac、エアロロードのVenge,エンデュランスロードのRoubaixの3種類です。
Tarmac SL6(2017年発表)にはリムブレーキモデルも存在しますが、Venge(2018年発表),Roubaix(2019年発表)はディスクブレーキのみとなっています。

今回はディスクブレーキを前提とした設計のバイクを理解したかったので、最も新しいバイクであるS-works Roubaixを試させてもらいました。
(Vengeも気になったのですが、自分のサイズが無かったので)


まずはRoubaixの感想から



たかだか20分ほどしか乗っていないのでインプレというか、ただの第一印象なのですが。

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テストバイクはRed etap AXS仕様の52サイズ。
上から見ると28cのタイヤ幅が存在感抜群ですね。




ステム根本、コラムの部分に見えるのがFuture Shock2.0(サスペンション)のウリである調整ダイアルです。
自転車を跨ぎ、とりあえずえいやと一番柔らかい方に回してみました。


漕ぎ出しは非常に軽快。CLX32を履いているおかげもあるかな?
サスペンションの印象は特にありません。
京橋のあたりの道は割とスムーズなので、28cのタイヤを履いていたらこんなもんかなあという感触。

Roubaixシリーズはこれまでもいくつか乗ったことがありますが、比較的重めのクルーザーのようなバイクのイメージでした。
今回のS-works Roubaixはそれよりも全体的にしゃっきりしているような気がします。突き上げは大幅に緩和されているけど、ホイールがしっかりと固定されていて、フレームとの一体感がある。
スルーアクスルだからかな?いや、サスペンションのおかげ?


なんてことを考えながら信号待ち。
「さてサスペンションを固くする方にダイヤルを回してみるか」と、ぐるっと一気に回してみると…


あれ、乗り心地、良くなってない?


…ダイヤルの向き、逆だったみたいです。マジか。
これまでサスペンションをフル活用していたと思っていたけど、実はほとんどロックした状態であったと。



つまり、一番硬い状態でも乗り心地が良い。
一番柔らかい状態だと、めちゃくちゃ乗り心地が良い?



改めて走り出してみると、全く違うバイクが現出しました。


これまでも乗り心地が良いバイクだとは思っていましたが、まるで異次元。

エアボリュームのあるタイヤや柔らかいフォーク・フレームは変形によって突き上げを吸収し、減らす方向に機能していますが、
Future Shock 2.0は「突き上げはある。が、ライダーの手前で消える」という感じ。

下を見ると、ちゃんとフレームは路面の凹凸に従って動いています。
が、ハンドルは上下しない。コラムの根本が伸縮し、ライダーの頭部は常に同じ高さを保っています。


皇居側から京橋方面に入る部分はいつも工事中でパネルが敷き詰められています。
そのため路面がひどく凸凹しているのですが、このRoubaixならグローブなしで鼻歌が歌えるほどの余裕さです。
段差を超えるたびにホイールやフレームが突き上げられているのに腕にはほとんど衝撃が来ない…
これまでロードバイクの上から見てきた光景とあまりに乖離していて、なんだか現実感がありませんでした。

一方シートポスト側の快適性は(Future Shockの比類なき快適性に比べれば)あと一歩という感じ。
このあたりはTrekのIsoSpeedが一枚上手でしょうか。
それでもカーボンのS-works Powerがついていたのに嫌な突き上げはありませんでした。


Roubaixはただ快適なだけではなく、非常に機敏に走ります。

コラムのサスがライダーの緩衝材となるということはつまり、フレーム自体はちゃんと硬く作れるということ。その硬さを十分に使いたいときだけ、適度にサスを固めれば良い。

ダイヤルを回してサスを固くすれば、下ハンで振ってみても非常に反応性の高い動きを見せます。
流石にサスを柔らかくすると少し上下に動く感じはありますが、左右方向への動きは無いので力が大きく逃げている感じではありません。





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そういえばコンポはRed etap AXSです。
etapはRed22を触ったときの印象が個人的にはあまり良くなかったので敬遠していましたが、AXSは恐ろしいまでに進化しています。
SRAM独特の操作方法に慣れてしまえば、あとはほとんど普段使っている9000系と同じか、もっと速い速度で変速してくれます。
本当に無線だよな…とエンド周りを覗き込んでしまいました。


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ブレーキは良い意味で全然印象に残りませんでした。
ガツンと急に制動力が立ち上がるようなことは無く、ロードのブレーキとして理想的なリニアでコントロールしやすいブレーキです。

普段使っているMavicのカーボンリムに施されているiTgMAXの制動力がかなり強いので、少なくとも平地の信号ストップにおける緩やかな制動ではディスクブレーキのメリットは感じられませんでした。
引きもめちゃくちゃ軽いかというとそうでもなく、しっかり組んだデュラであれば十分対抗できる感じ。

ブレーキが億劫になるほどの長距離やダウンヒルではまた違った感想が出てくると思いますが、今回はちょい乗りなのでディスクブレーキ自体がバイクの魅力になることはありませんでした。



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東京駅が見える道で自転車を停め、じっくり眺めてみました。
シートポスト周りの張り出しを除けば、比較的自然なロードバイクのシルエットです。
ですが、乗ってみるとまるで別物。僕の知っているロードバイクと違う。


一粒で二度美味しい。
二台のバイクが一台の中に同居している。

一台は、一線級の反応性を持つレースマシン。
一台は、まるでMTBのように路面をいなしつつ、非現実的な浮遊感とともにかっ飛んでいくGTカー。

S-Works Roubaix 2020はそんなバイクでした。



”ロードバイク”とは


 
Roubaixから降りた僕は、その常軌を逸した乗り心地に興奮した神経を落ち着かせつつ、こう考えるのです。

ロードバイクって、なんだっけ?

それはつまり、
これはロードバイクなのか?

という疑問でもありました。



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引用:wikipedia(en) 1949年にファウスト・コッピがミラノサンレモを制したときのBianchi


これは英語版のwikipediaから引っ張ってきた「ロードバイク」です。
1949年、かの有名なファウスト・コッピがミラノサンレモを制した際に乗っていたスチールバイク。
変速機はロッド式でリアにしかありませんね。
ステムはクイル式でしょうか。近年アヘッドステムに置き換わりつつあります。
ブレーキは現代にも通づるリムブレーキ。 


そう、これはロードバイクです。ロードバイクの原始的な形態です。
ギア板が12枚も無くても、タイヤが19cでも、もちろんこれはロードバイクです。

ここからロードバイクという概念は人の弛まぬ努力による様々な技術革新によって拡張されてきたのです。 
素材が変わり、変速機が増え、リムハイトが増え、ステムが変わり、様々な電子機器が搭載されようと、それはロードバイクなのです。

そうであるならば、Roubaixもまたロードバイクです。

なぜならば、すべてのロードバイクは速く走るために作られているからです。

一体何のためにRoubaixは快適性を追求しているのか?
全ては速く走るためです。
速く走るための阻害要因である衝撃やライダーの疲労を減らし、より速く走るためです。

速く走るために生まれてきたのなら、それはきっとロードバイクなのです。
どんなに違和感があろうとも、それはロードバイクなのです。


であるならば、ここからロードバイクの未来が見えてきます。

ディスクブレーキという要素は何のために使われるべきなのか?
その答えはもちろん、より速く走るためです。

サスペンションは必要なのか?
より速く走れるのであれば。

ロードバイクは進化を続けています。
残念ながら、これまでのような予測のしやすい進化(フレームを軽くする・固くする)は停滞期に入ってしまいました。 成熟しきってしまったのかもしれません。
それでもロードバイクは進化します。ありとあらゆる手を使って。

その進化は人に違和感を覚えさせるかもしれません。10年前にはエアロロードが好奇の目で見られていたように、20年前にはスローピングフレームがマイノリティであったように、30年前にSTIレバーが初めて人前に現れたときのように。

それでもロードバイクは進化を続けるのです。
速く走るために。

それでは、なぜ速く走るのでしょう?







ツール・ド・フランスの100回記念に発行された「ツール・ド・フランス100回 グレートヒストリー」という本がお気に入りです。
1903年の第一回TDFから2013年まで、600点もの貴重な写真や資料を収めた歴史的な本です。

どのページの写真にも、ロードバイクが写っています。
姿かたちは違えど、皆ロードバイクです。
その時代時代で、最も速く走るための形をしています。

あなたがこの本を手に取り、彼らが走る姿をみれば。
ロードバイクが何故速く走るのか、すぐに分かることでしょう。
いや、あなたは既に知っているかもしれません。



それは冒険のためです。
より遠く、より高く、より美しいところへ行くために。
一番にたどり着くために。

ロバート・ピアリーやフレデリック・クックが我先にと北極点を目指したように、二大国が初の有人宇宙飛行を競ったように、冒険と競争は切っても切れないものなのです。

冒険へと駆り立てる道具。遠くへ連れて行ってくれる魔法のほうき。
速く、もっと速く、まだ見ぬところへ真っ先にたどり着くために。


そう、ロードバイクは、そんなものなのです。しらんけど。

だから、僕の中ではRoubaixもロードバイクということで納得がいきました。

そしてこれから、ロードバイクはもっと楽しくなると確信しています。 
ここ十年見たことのない、ドラスティックな変化をするでしょう。
技術開発についていけず淘汰されるブランドも出てくるでしょう。

でも、人々がロードバイクの楽しさ、根源的魅力を忘れない限り-絶対に忘れないでしょうが-ロードバイクは今よりもずっと楽しいものに進化していく。

そんな未来を垣間見ることのできた試乗でした。 







…と終われば良かったのですが、この話にはもう少しだけ続きがありまして。


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