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「率直なところ、みなさんのほうで究極の疑問が何であるかわかっていなかったことに問題があるのです」


バイシクルクラブの特集記事を集めた類の本かと思いながら買ってみたのですが、実際に目を通してみると良書でした。


まずWhereとWhyを掘り下げる

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まず、自転車本にありがちな薄い満漢全席本ではなく、「身体をなるべくニュートラル状態においたまま動かしやすい部分を動かすために身体を機能させる方法」に特化して一冊が出来上がっている点が素晴らしい。

全体の構成として、最初にWhereとWhy(何故あなたは遅いのか)をしっかりと掘り下げ、要因分解を行った上でHow(改善のためのドリル)に落とし込むという適切な問題解決の流れです。
特に自転車関係の書籍にはWhereとWhyをほとんど掘り下げずにHowを打ち上げる構成が多いと感じるので、序章だけでもこの本を読む価値があります。
(WhereとWhyについては「個人差が多く特定が難しい」という名目で自己診断に任せがちというのも理解できるのですが、自転車上で何らかの問題を抱えている人であればあるほど自己診断能力も高くはないと思うので必要な情報だと思います)

もちろん「著者が設定した根本原因以外にも自分が遅い理由はあるのではないか?」という疑問は浮かびましたが、今回は最も一般的に見られ、かつ効果が高い改善箇所に絞り込んで一冊に仕上げたと理解しました。また、筆者の「アプローチとして最も適しているのは体幹」という記述も信頼しています。


この丁寧に成されるWhere/Whyの説明ののち、Howへ繋げる際に「プランク状態」という分かりやすいToBeを示しています。
体幹を鍛えるということに「上体を安定させる」というお決まりの、いまいち説得力に乏しい理由づけだけではない多角的な説明がされており、上体のトレーニングに納得感が得られました。


25のドリル

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この本のメインは26のドリルです。

ペダリングという一つの大きな存在を、26の要素に細分化し、1つずつ身につけていく形です。
基礎から固めて段々と複合的な動きになっていくので、ドリルを飛ばさず、1から順番に進めることになります。
ドリル一つあたり1週間での習得が目安と書かれているので、最低26週で身体を作っていきます。


この構成も素晴らしいですね。
ブラックボックスの中から出てきた理想形だけを見ても何がなんだかわかりませんが、そのロジックを一番簡単な所から一つずつ身につけていけば、ブラックボックスを解体し、身につけることができるという流れです。
答えは42だ、と言われるだけでは再現性がないわけで。





「わかってない」ことがわかる


一方で難しいな、と思ったのはドリルのパス判定です。
例えば、ドリル1は「呼吸時に背中を膨らませられるようにする」ものです。
これは鏡や動画で自分ができているかどうかを判断することができました。
しかし、ドリル2の「胸の筋肉で鼻を地面から浮かせる」については、自分が「正しく胸の筋肉で浮かせている」のか「実は他の部分の筋肉で浮かせている」のか、自己判断するのがとても難しいです。



結局の所、自己診断ができないと自己改善は難しいのだなぁ、という結論に至りました。
そして、スキルが無い人ほど自己診断をするスキルも持っていないと思うので、自己改善を闇雲にやりがち、というパラドックス。
経験のある他者に診てもらう、少なくともディスカッションする機会は必要不可欠なのでしょうね。
その点で言えば、筆者はセミナーを多く開催しているので、アフターフォローが上手というか、うまく誘導が出来ています。




僕はといえば、今回ドリルに取り組んで改めて僕自身が自己診断機能を持っていないことを認識したので、「ハムスタースピン受けないと…」っていう感じです。

自分が自分の身体のこと、良い動きのことをわかっていない、ということがわかる一冊でした。




books

頭の中では、これまで読んだトレーニング関連の本をこんな感じでプロットしています。
だいぶマトリクスが埋まってきた気がしますね。
属性が違う本が混在しているのは許してください。




情報価値のルネサンス




本の内容とは関係無いのだけれど、改めて思い知らされたのは、一般的な数多くの人々は非常に小さなコミュニティの輪から零れ落ちた断片的な情報で自分のタスクを設計しているのだ、ということ。
情報サークルの垣根は何重にもあって、末端でぼんやりしているだけでは数十年前の情報で止まってしまいそう。
トリクルダウンには時間がかかる上に、ネットには時間軸が考慮されていないまま多様な情報がごっちゃになっているので。

そして、現代のロードレース界は伝統という名の正義の下による思考停止から、アンチドーピングやらチームスカイ登場の影響やらで大きく変わり始めていて、このまま放置していれば情報格差によるトレーニング効率性の乖離はどんどん広がっていくのだろうな、ということ。

いや、決してそれは悪いことではなくて、価値のある情報は容易に手に入るものではないのです。
フリーランチは決して無い。
noteとか、まさしくそれ。
ウェブが混沌としている今、ピュアな情報を得るためには対価を支払う形に戻りつつある。

結局のところ、僕のような末端がフレッシュな情報を得るには、情報生成点となるコミュニティに飛び込む勇気か、コミュニティ内で編集されたものが提供されるのを待つしかなく、一般的には前者のほうが難しい場合が多いので、後者を期待するしかないなーという感じですね。
情報の価値がとにかく下がり続けた時代からようやく少し揺り返しが来た気がするので、多少は情報収集が楽になるような気がしてきています。