IMG_9797


「ロードバイクという概念」に乗るような一台。
今年のバイクは今年のうちに、なんて思っているうちに2016年になってしまいました。

CANYON Ultimate CF SLXには乗り換えてから7000kmほど乗りました。
どんな機材もそうですが、買ってから時間が経つと印象が変わったりはっきりしたりするので、そろそろ再インプレッションをしようかと思います。
今回は前回の客観的インプレというよりも、より感覚的なインプレを目指しています。
幸運にもDOGMA F8やMadone 9、Supersix Evo Hi-modに乗る機会があったので少し相対化できるようになった気もしますし。
SLXは2016モデルでモデルチェンジしてしまいましたが、SLは同じ形状ですし何らかの参考になるかもしれません。

※一個人の感想です。
好き勝手書いてるので参考程度になさってください。






sponsored link





無個性の"個性"



IMG_9110



この自転車に乗っていると自分が健忘症にでもなったのかと思う。
自分が何というモデルの自転車に乗っていたか忘れてしまうから。



…と言うと大げさですが、Ultimate CF SLXは乗り始めの頃「とにかく無個性」と思わせるバイクでした。
前回のインプレでは「完璧さが故に個性が無いというか、尖ったところが無いのは人によっては欠点」と書いています。
CANYONもそれを判っていてステルスカラーにしたんじゃないかと思うほど。


しかし乗っていくうちにちょっと違った感想に。
これは単純に個性がないのではなく「あらゆる性能が満遍なく高い」んだな、と。
出来杉君タイプですね。殆どの性能が90点以上。
その代わりに、100点や120点な部分は無し。

例えば、フレーム重量は790g。Supersixほど軽くはないが、十分に軽い。
快適性もISOスピード入りのMadone 9ほどではないけど、ギミック無しのフレームにしては非常に高い。
剛性にも癖が無く、低速から踏み込んだりケイデンスを変えてみても挙動が乱れる事無く全て受け止めてくれる。


つまり、フレームの個性とはなんぞや、っていう話なんですよね。
個性って必ずしも性能の高さから出てくるものではないわけで。

「綺麗なパワーカーブよりも一度ムラを作って癖をつけたエンジンの方が顧客は面白く感じる」っていうのは湾岸ミッドナイトだったでしょうか。
つまり、個性として感じられる癖、変化って「良い→凄く良い」への変化というよりは「良い→悪い→良い」の変化であることが多いんじゃないかなと。

ギャップは分かりやすい個性を産んでくれる。
"高速域から伸びる"ように感じるフレームは、実は"低速域で全く伸びていない"だけなのかもしれないです。
どの速度域でも予想の範囲内で最大限の動きをするフレームであるところのUltimateは"乗りやす過ぎる"ほど乗りやすいフレームなんでしょうね。

「なんだか判らないけど凄く良い」というこのバイクのファーストインプレッションは間違ってなかった。
それは、とにかくネガティブな面が無いという感覚の裏返しでした。


※唯一の弱点かな、と思うのは高速域での伸び。
というか、高速域になってペダリングが乱れてきた時にフレームが助けてくれる感覚が弱いです。
しなりがあるタイプのフレームだと、こちらのペダリングの乱れを均してくれるような感覚があるんですが、Ultimateは硬いが故にペダリングが綺麗でないと上手く進んでくれない感じがします。
しかしその硬さは綺麗なペダリングを維持できる速度域ではたわむフレームより良い方向に働いているように思うので、欠点というわけではないですが。
ちなみにこの弱点はホイールをBORAに交換するとかなり解消されます。
ホイール側での微妙なしなりと空力からくる高速域の伸びが上手く補ってくれるのではないかと推察。



性能面



IMG_9602



性能面では、基本的には以前に書いたインプレと同じ感想です。
乗り心地が良いにも関わらず、反応性も非常に高い。
レースもロングもなんでもござれ。

ただし、ダウンヒルでのコーナリングは少し訂正。
以前は「弱アンダーで少し曲がりにくい」と書いたのですが、ステムを-17°の100mmに交換したら一気に改善されました。
とはいえLOOK 585やDOGMA F8のような切れこむコーナリングではなく、あくまで乗り手の意志を反映するニュートラルな感覚です。
これ、凄まじいです…曲がりすぎず、曲がらなすぎず。
とにかく何の不安もなくスルスルと曲がっていく。
下りの恐怖感がさらに薄れるというか、他のバイクと同じ感覚で下ってると明らかにいつもより速度域が高い不思議。
あんなほっそいフォークでなんでここまでしっかりしてるんだ…と。


実際に運用していて、このバイクが特に光るシチュエーションはやはり登り。
長い登りでは持ち前の軽さで輝く一方、より存在感を増すのは短い登りの繰り返し。
例えば彩湖や日産スタジアムエンデューロの短い登りや、道志みちのようなアップダウン。
ある程度の速度から一気に登る時に失速感が無く、むしろ加速してるんじゃないか?と思うくらいの速度でビュンビュン登っていくのはUltimate CF SLXに乗ってて良かった!と思う瞬間。
脚が無くなってきても登りやすいと感じるので、このフレームの超得意分野なのかも。
いや、軽いだけ?







他社ハイエンドと比べてみる




先日、DOGMA F8とMadone 9に乗る機会がありまして。
はっきり言って乗るのが少し怖かったです。
というのも、前評判では「世界最高のバイク」なんて言葉がポンポンと飛び出るほどの二台だし、Ultimate CF SLXを駆ったキンタナはDOGMAに乗るフルームに敵わなかったわけで。

IMG_9606


しかしありがたいことに、DOGMAに乗ってもさしたる感動はありませんでした。
確かにハンドリングはUltimate以上のキレがあるし、バイクの安定感は素晴らしい。
でも踏んだ時のフィールは低速でもギュッと硬く脚が跳ね返されるようなものでしたし、振動減衰性は高いが振動吸収性はUltimateの方が優っていました。
試乗コースを回りながら、これだったらUltimateと互角かな、とぼんやり思いました。


あっちこっちハイエンドのフレーム(本気のエアロ系除く)に乗ると、もはや味付けの違い程度の差しか無いと感じます。
どれも進むし、登れるし、快適だし。

おそらく本当に限界レベルでの性能、例えば50km/hレベルでの高速域や100km/hでのダウンヒルなど、一般ユーザーが一生体験しないような世界での性能差があるに過ぎなくて、ほとんどの人には「こっちのバイクはより踏み応えがいい」とか「より進む気がする」とか、そういう感覚の世界でしか無いかなと。
UltimateとDOGMAとで、僕のような低出力のホビーライダーが乗る分には、ホイールやタイヤで軽くひっくり返りそうな程度の差しか感じられないのが嬉しくもあり悲しくもあり…


幸運なことに、Ultimateの味付けはDOGMA F8より自分の好みでした。
DOGMAは踏んだらみっちり詰まったような感覚でドッカンと進み、止まる時もギュッと勢い良く、コーナリングはオーバーステア気味に鋭く切れこむ。
味付けとしては下手な乗り手には扱いきれないような、高級車感が伝わってくる感じ。

少し、なんというか…僕程度の脚ではどっしりし過ぎていて軽快感に欠ける気がします。
シャマルを履いているならもうちょっと飛んでも良さそうだけどなぁ…と。
振動吸収性よりも振動減衰性に振った乗り心地は、Ultimateに比べると少しスパルタン。
100g差のフレーム重量の分だけよりガッシリとした感じがあるので、身体が大きくパワー系のライダーならDOGMAの方が好みなのかも。

二重にラッキーなのは、Ultimate CF SLXはDOGMAより40万円安いということ。
確かに造形には独特の高級感がありますが、昔のモデルほど塗装に手が込んでいるわけでもないのでUltimateより圧倒的に所有欲が満たされる…という感じでもないです。
でももしDOGMAを買っていたらそれはそれで「最高だ!」と叫んでいたと思うし、Pinarelloのブランド力、DOGMAの名を持ったフレームに乗るにはそれなりの対価が必要なのも理解できます。

どっちが良い悪い、というわけではなくDOGMA F8とUltimateではキャラクターに差があり、僕にとっては後者のほうがより好みでした。



IMG_9616

一方、僕を完全にノックアウトしたのがこのMADONE 9 RSLです。
1グレード下、というかプロモデルではない通常の9.2(マットブラック/ブルーのフレーム)にも乗りましたが、そのどちらもが僕にとって感動モノのバイクでした。
試乗を開始した瞬間に思わず「うわっ!!」と声に出してしまうほどのとんでもない加速!
とにかく、進む進む、よく進む!

矢のようにバイクが飛び出していくにも関わらず、路面に吸い付くような奇妙なフィーリングと、とにかく真っ直ぐ走ろうとすると感じられるほどの高い直進安定性が印象的。
ISOスピードのせいか乗り心地もUltimateより遥かに良い。

とっっても気持ち悪く、とっても気持ちいいバイク。
踏み込んでも硬さらしい硬さを感じないのに、しかしたわんでいる様子はなくバイクがぐんぐんと加速していく。
バイクからのインフォメーションでは速く走っているという感覚が無いのに、実際にはとんでもないスピードになっている。

コーナリングでは高すぎる直進安定性のせいか一瞬曲げにくさを感じるが、それも含めてとんでもなく良い面での個性が強いバイクで気に入った!
登り下りなど知ったことじゃない、とにかく平地でかっ飛ばしたい!っていうタイプの人にはもう全力でオススメ。

少なくとも、個性的で刺激的なロードが好きな僕は本当に惹かれてしまった。
試乗後に160万円という価格を「決して高くはない…」と思ってしまった程に魅力的な一台。
あらゆる意味でUltimateのようなオールラウンダーとは対極だと思うので、こういったバイクがトップメーカーから出てくれるのは本当にありがたいなーと。
9.2の方は65万円らしいので、試乗してみた結果によってはMadoneを選ぶほうが正解という人も少なくないかも?
いやはや…欲しいですねw







30-(1)



個性がないなんて言ってしまいましたが、長く付き合ってみるとしみじみと良さが判るスルメタイプのバイクでした。
ドイツ的というか、実に渋い魅力を持つ良いバイクです。
普段は物静かで乗り手を従順に支えていますが時々キラっと光る魅力を発してくれるバイク。


Ultimateに乗るようになってからローラートレーニングの内容を少し見直しました。
具体的には、これまで「どうせ使わないから」と回避していた高強度域の練習を増やし始めています。
このフレームはあらゆる状況で高次元の走りをしてくれるので、まるで鏡のように現実を突きつけてきます。こっちは完璧だから後は乗り手のお前次第だぞ、と。
Ultimateに乗る度に、乗り手としての素養を問われているように感じられます。
なので、もっと速く走らせるために、少しでも性能を発揮させられるように自分が頑張らなきゃいけないなと思わされます。

まるで「ロードバイクという概念」に乗っているような、そんな不思議な感覚に陥る一台です。


 

→フレームの概観などの記事はこちら

→フレームの設計思想に関する記事はこちら

→ファーストインプレッションの記事はこちら
 
→購入後に変えた部分についてはこちら