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CANYONは流行に乗っただけの新興フレームメーカーか?
 

CANYON Ultimate CF SLX(毎回長いなーと思いながら書いています)のフレームは、
24.5万円。
一般的にはローグレード〜ミドルグレード程度の価格帯ですね。
もしくはOEMを専業にしてきた台湾メーカーが自社ブランドを作って売り出したらこんな感じの価格になりそうです。
勿論CANYONのこの値段には本社直販で代理店&自転車屋をすっ飛ばすという工夫があるのですが、それでも「気合入れて作ってるのかよ?」と思いたくなるプライシングです。
僕自身最初は「テキトーな中華フレームに自社のロゴ描いて部品だけ豪華にして売ってるんじゃないの?」と思ってました(某ハートマークを思い出します)。
色々と調べて、本当にCANYONが設計丸投げ部品売りメーカーかどうか考えてみます。


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■Ultimate CF SLXの設計思想は?

IMG_5822

僕のもう一台のバイク、LOOK 585が設計された時代(2000年前半)はいかにカーボンで剛性を出すかというのが至上命題であったように思います。
僕がロードに乗り始めた7年前の雑誌を眺めても、「前年モデルに比べ◯◯%剛性アップ!」といったような言葉が目立ち、快適性に関しては「カーボンだからアルミよりは快適だけど…」というように脇に置かれていた時代。
2000年代はカーボンバイクの黎明期。いかにカーボンを速く走らせるか、といったことに焦点があたっていたのでしょうか。
585に実際に乗ってみると、逞しいシートステーが細くしなやかなチェーンステーと組み合わさって後三角全体で剛性を作り出しているように感じます。
それはつまり、快適性を生み出す部分が殆ど無いということでもありました。
写真を見れば、585では苦肉の策としてシートステーが撓む方向にベンドされているのが判ると思います。

それが2010年頃になると、乗り心地と硬さを同時に確保したバイクがちらほらと出てきます。
それを決定づけたのはおそらく2006年のCervelo R3 teamのような、極細シートステーを装備したロードの登場。
 
 r3
引用:バイシクルドットコム

この前にもこういったタイプの設計はあったとは思いますが、このR3が市場に与えたインパクトは大きかったと思います。
それまでの「チェーンステーをしならせ、シートステーでそれを必要最低限に抑えこみタイヤを接地させる」という設計から「チェーンステーはパワー伝達に特化させ、シートステーを振動吸収に特化させる」設計へのシフトはこのR3の登場から少しずつ広がり、今では極細シートステーのバイクも珍しくなくなりました。

 seat
引用:各社公式サイト

2014_10_23_5479
引用:Y's road新宿カスタムBlog
LOOKも!


このタイプのバイクでは、チェーンステーをとにかく太く硬くし、チェーンによるスプロケット〜リアエンド引っ張りを全てそこだけで受け止めます。
そしてシートステーには地面からの衝撃の吸収と最低限のねじれ剛性の確保だけが役割として与えられます。
その結果シートステーは細くしなやかになり、ライダーへ伝わる衝撃が減少することで快適性が向上すると考えられます。

それではキャニオンはどうなんだ、結局後追いの流行に乗ったタイプなのか、というとどうもそうではないらしく。


キャニオンは2004年のユーロバイクでF10というモデルを出品しているのですが、これは当時としては激軽の970g(size58)で且つフォークとシートステーを細身にすることで乗り心地にも配慮したモデルとなっているのです。

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引用:Weightweenies
 
CANYON公式サイトでは開発部長のミヒャエル・カイザー氏が「スパゲティシートステーとスパゲティフォークは賛否両論だったけど、今ではすっかり普及したよ」と満足気に語っています(それにしてもカッコイイ名前の方ですね)。

つまり、10年以上前からCANYONはシートステーを細身にすることのメリットを判っており、さらにフォークにそれと同じ機能を担わせるということも当時既に決定していたということです。
LOOKは同じ時期に585を作っていたわけですから、CANYONの先見性はかなり高いと言わざるを得ません。

(誤解を招きそうなので書いておきますが、CANYONが正しくてLOOKが間違っていた訳ではありません。当時の技術ではLOOKがレースバイクとして完全に正しい設計だったはずです。スパゲティなフレームではプロ選手のパワーを受け止める剛性など無かったのではないでしょうか。LOOK 795のリア三角を見て頂ければLOOKも時代に応じて変化していることが分かります)


しかも素晴らしいのは、現在のUltimate CF SLXまでその設計思想が受け継がれているということです。

 IMG_6324

その証として。
トップチューブに"F10"と書かれているのが判るでしょうか。
この文字の意味が判った時には少し感動してしまいましたw



■Ultimate CF SLXのジオメトリ



ジオメトリ表を見てみましょう。

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 パッと見て特徴的なのは、シートチューブ角が全サイズ73.5°であること。
これは一見手抜きのようにも思えますが、シートチューブが寝ている分にはシートポスト側で調整すれば十分ポジション出し出来るので、むしろリーチの逆転が起こらないというメリットの方が際立つでしょう。
そのために前後に可動範囲の広いVCLSシートポストが付属していると考えることも出来ます。

また、ワリとリーチが短めに作られているのは好感が持てます。日本人に優しいですね。
ヘッドチューブは少し長めですが、Cerveloほどではありません。
ただし先に述べたように特殊なヘッドセットが付属するので実際にはもう少し長いので注意。

それから、チェーンステー長が最小サイズでも410mmということが目を惹きます。
これをどう考えるかは難しいところです。73.5°のシートチューブに対してホイールのクリアランスを確保する為と捉えることも出来ますし、もしくはもっと別の理由があるのか。
ただしホイールベース自体は短めなのでそれほど機動性に影響を及ぼすとは考えにくいです。

というか、チェーンステーを短くする=剛性が高い=反応性が良い というのは材質面の問題で長いチェーンステーでは剛性が確保できなかった時代の常識であり、今の時代はチェーンステーが短い事自体にはそれほどのメリットは無く、むしろチェーンステーがある程度長い方がメリットが大きいんじゃないかなぁと推測しています。



こうして考えていくと、CANYONの設計にはかなりオリジナリティが溢れていることが何となく判りました。
生産はアジアだと公言されていますが、設計にCANYONの魂がこもっていればそれで十二分だと思います。

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フレームの作りはとても綺麗ですしね。



→フレームの概観などの記事はこちら

→インプレッションの記事はこちら


→購入後に変えた部分についてはこちら

→7000km乗ってからのセカンドインプレッションはこちら


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